会読したい!

みんなで一冊の本を読む「会読」。始めてみませんか?

【会読・読書ノート】生物から見た世界/ヤーコブ・フォン・ユクスキュル,ゲオルク・クリサート(著).日高敏隆,野田保之(訳)/思索社【第一部・第二章】

はじめに

この本(生物から見た世界/ユクスキュル)は、大変素晴らしい本だと思うのですが、私の力が及ばず、現状、私はきちんとした深い読みができていません。理解を深めるために、一人会読を進めていこうと思います。「インターネットを使えるなら、一人会読の要約(レジュメ)はぜひともネット上に公開すべきだ(独学大全・p192)」の言葉に基いて、こちらにアップしていきます。ご示唆・ツッコミは大歓迎です。(レジュメ作成には、昭和48年6月30日に思索社から発行された版を用いています。現在岩波文庫から出ている新版とは、ページ数や訳語が異なる、第二部やアドルフ・ポルトマンによる解説が存在する、等の差異があります)

 

第一部

 〈二章〉最遠平面

前章で述べた視覚空間については(眼で見える範囲に制限があることから)不透明な壁に取り囲まれていると言える。この壁のことを本書では地平面(Horizont)または最遠平面(die fernste Ebene)と呼ぶ。

 

太陽・月・星は、奥行きの違いなく、最遠平面の上にある。最遠平面が可変的であることは、筆者(ユクスキュル)自身が体験している。筆者が重いチフスから回復した時は、眼前20メートルに最遠平面が存在していた。

 

我々の眼のレンズは、カメラのレンズと同様の働きをしている。すなわち、カメラのレンズが感光板に対象物を映し出すのと同様に、眼のレンズは網膜に像を映し出す。眼のレンズの曲率は、筋肉の作用によって変わる。眼のレンズの筋肉の収縮・弛緩により、見える遠近が変わってくる。

 

乳児の最遠平面は、10メートルの範囲で留まっている。成長にともなって最遠平面は遠くなっていき、成長後の視覚空間は6~8キロメートルが最遠平面となっている。そのため、大人と子どもの視覚空間には差異がある。

 

ヘルムホルツの体験によれば、ヘルムホルツが少年の時、ポツダムの工事中の教会の前を母親と通り過ぎようとした。すると、彼は、教会で作業している人々がいることに気がつき、母親に「あの小さな人形をとってちょうだい」と頼んだ。彼にとって、最遠平面にある教会や人間たちは人形のように小さく見え、遠いことがわからなかった。そのため、母親ならばその長い手で人形をとれるだろう、と思ったのだ。母親の環境世界では、小さな人間ではなく遠く離れた人間がいる、ということが、彼にはわからなかったのだ。

 

様々な動物の環境世界の、最遠平面の位置を解明するのは難しい。主体に近づいてくる物体が、どの地点から近づいてくるように見えるのかを、実験的に確認するのが困難だからである。イエバエの実験では、人間の手が50センチに近づくところで飛び立つことから、最遠平面はおそらくそのぐらいの距離だと推定される。

 

最遠平面はすべての生物に存在している。たとえば草原に存在している昆虫の一匹一匹が、それぞれ一つのシャボン玉のようなもので取り囲まれている、といえる。そして、生物それぞれが、そのシャボン玉の中のもの、すなわち視覚空間の中のものしか見ることができないのだ。それは、ぐるぐる飛び回っている鳥、枝から枝へととびはねているリス、牧場で草を食べているウシ、であっても変わらない。

 

この事実から、我々人間の世界もまた同様に、我々ひとりひとりがシャボン玉に取り囲まれていることがわかる。このことから、空間の想定に対しては、すべてを包括する宇宙、のような空間はまやかしであり、常に、主体と関連した個々の空間のみが存在している、といえる。

 

【感想】

 ・序章で、生理学が生物機械論的な立場にあることから、筆者(ユクスキュル)は生理学に対しては、やや批判的な立場にあるのかな?と思っていたけれど、「それはそれ!」としているのか、このあたりはかなり生理学的な目線で書いているように思う……。これはすごいことだと思うし、柔軟だなーとも思う。

 

・私には、ユクスキュルのこの視点の多さがとても魅力的だなーと思う。哲学・物理学・動物行動学・生態学生理学を縦横無尽に繰り出してくる感じで……いや、まあ、だからこそ、それがために私にとっては読みにくいのは否めない…

 

・ところで、このあたりで例示されている話などは、現代ではどのくらい更新されているのだろうか……詳しい方に聞いてみたい。

 

・とりあえず、トンボの採餌のサイズとその距離についての論文は、大~~~昔に読んだことがあるぞーと思って記憶をがさごそひっくり返して探してみたら、多分これ!というものが見つかった!ありがとうGoogle scalar!

 

タイトル:Prey size selection and distance estimation in foraging adult dragonflies.

 

https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=odonata+foraging+size+selectivity&oq=odonata+foraging+size+s#d=gs_qabs&u=%23p%3DA4ePxwdUmz4J

 

トンボが補食する餌のサイズに選好性があること、さらにユクスキュル言うところの「最遠平面」が大型の種で1m、小型の種で70㎝と推定されたこと……これは……ユクスキュルがご存命だったならば、めちゃくちゃ喜んでくれそうな論文だと思う…!

 

・シャボン玉の比喩はすごく詩的で素敵だな……こういうのがたまに差し挟まれるのが、ほんとにいいところだと思う……。あんまりにも多すぎると、ちょっと個人的には苦手意識が強くなるけど、このぐらいが程よくて好きだな……。

 

・そしてカントが「人はそれぞれ、個別の感覚の中に閉じ込められている」的なことを言っていたのを下敷きにしたのが、このシャボン玉の話のことなんだろうな……と思った。(一方でカントは「だがしかし、人は『理性』により、その個々の状態を脱する事ができる。理性が人をつなぎ、連携させるのだ」的なことを書いていた……ちょっとここの辺は、あとできちんと引用をする……)